僕はいわゆるスタジオミュージシャン、クライアントから依頼を受け楽器を弾きギャラを頂いています。
そんな僕のような人間から見た音楽業界、そしてスタジオミュージシャンという職がどういったものなのか。
スタジオミュージシャンという職が気になる、将来なってみたい、そんな方の参考になれば。
自分がなったからこそ言える、音楽業界なんて目指すな!
はい、のっけから「音楽業界なんてやめとけ!」なんつー色々夢なんかをぶっ壊す発言です・・・笑。
音楽業界って芸能界と非常に近いイメージがあると思います。
当の音楽業界の中の人達は「俺は芸能人ではない」と思っていますが世間一般の人から見たら同じような業界でしょう。
お米を作る農家さんと野菜を作る農家さんをひっくるめて農業と言うようなもんだと思ってます。
芸能界、華々しいですよね。
特に若い女の子が憧れてなりたい気持ちはよーく分かります。
外から見たら輝かしい世界でみんな生き生きしていて、それで居てチヤホヤもされる。
その分その門は非常に狭き門で、実際に芸能界デビューして生き残っている人なんて本当に僅か一部の人達です。
音楽業界も同じで、あんまり知られていないですが毎年メジャーデビューしている人達は400~500組ぐらいいます。
ところが1年後2年後残っているアーティストなんてその100分の1組居ればいい方でしょうか。
大半2~3枚のシングルと1枚のアルバムをリリースして消えていく、みたいな状態じゃないですかねー。
その後メジャーレーベルとの契約を打ち切られインディーズレーベルで自費出版をし活動をしているようなアーティストが大半だと思います。
こういう人達から発信されていくんだと思います「メジャーなんてクソだ」みたいな言葉。
それが一般人にも伝わってメジャーレーベル=堅苦しい、狭苦しい、自由が無いみたいなイメージもあるとかないとか。
結局は落ちぶれていった人達の負け犬の遠吠えみたいな部分が大きいんです。
メジャーレーベルだって商売ですから、当然アーティストは商品です。
まして今や違法DLやコピーツールが腐るほど溢れるCDが売れない時代、昔のようにアーティストを育ててなんつー余裕なんてどの会社にも無いんですね。
お金を掛けてプロモーション打ってレコーディングしてCDにして、結局それが回収出来なければばっさり契約を切られたりします。
シビアな世界だなんて言われますが、それって普通の会社でも個人が営業している個人店舗なんかでも全く一緒で至極当然の世界の話です。
スタジオミュージシャンが業界に”モテた”訳
ところで同じミュージシャンにも色々な形態があります。
いわゆるテレビなんかで見るアーティストとは違って、特定のグループなんかに属さず自分の演奏技術を切り売りするような職業、それがいわゆるスタジオミュージシャン。
サポートミュージシャンとかレコーディングミュージシャンとか似たようなネーミングは多々ありますが、まぁ大体同じような意味でしょう。
僕もいわゆるスタジオミュージシャンとして活動しています。特定のグループに属さず、依頼があればそれを弾き賃金を頂いて生計を立てていると言ういわばフリーランスみたいなもんですね。
僕の場合はとある事務所に所属していますが、サラリーマンのように固定月給制ではなく完全に出来高制なので月の給料も自分の仕事量によってかなり差が出てきます。
最近だと固定月給制の事務所や契約形態も多くあるようですけれど、主流は出来高制じゃないかな?結局のところ楽器を弾いてなんぼの世界です。
僕は今20代なのですが、ちょうど僕が生まれた辺りにあったバンドブーム。
今で言えば僕も好きなL’Arc-en-CielとかGLAY、X JAPANやLUNA SEAなんかが当てはまりますね。
その後時代が流れアイドルブームやらなんやらありましたが、歌姫ブームがやってきてスタジオミュージシャンが業界に一斉にモテたらしいです(この頃僕はまだ学生だったので聞いただけの話です・・・w)
と言うのも例えば歌姫ブームで言えば浜崎あゆみさんなんかは言及せずに居られない存在ですよね。
あの人の場合は有名なギタリスト、野村義男さんがずーっとバックでついて居ます。
彼女達”歌姫”は自ら楽器演奏をしないので、必ずスタジオミュージシャンの存在が必要になってきます。
打ち込みのみで完成された音楽ではない限りレコーディングのみなのかステージ上でも必要なのかはさておき、どこかしらの1パーツのみだとしてもスタジオミュージシャンの存在ははずせない訳ですね。
そんな理由から、当時はスタジオミュージシャンに多くの仕事が舞い込んできたとか。ところがそう上手くもいかないのが時代の流れです。
歌姫ブームの終焉とシンガーソングライターブーム
浜崎あゆみ、宇多田ヒカル、倖田來未、大塚愛、綾香etc…
いわゆる歌姫世代が続々とデビューしていく時代でしたがどんなブームにも終わりは来るもので、その後シンガーソングライターブームがやってきます。
つまり自分で曲を書けるアーティストですね。
僕はまだこの時もミュージシャンになる前だったのでこれも先輩スタジオミュージシャンから聞いた話が多いんですが、結局のところ楽曲を書ける書けない、この差は非常に大きいものだったそうです。
歌姫世代の楽器に対しての知識が乏しいアーティストと、自分で楽曲を書ける畑違いの楽器であっても多少の知識があるアーティストではそりゃ当然です。
後者の場合、よりアーティスト本人が気に入ったスタジオミュージシャンを指名するようになったそうです。
それ以前は事務所やマネージャーが指名する事が多かったそうな。
浜崎あゆみにおけるよっくんは正にその例であると有名ですよね。
当然、気に入られたスタジオミュージシャンはどんどん仕事が増えていきます。
反面、指名を勝ち取れなかったスタジオミュージシャンは徐々に仕事を減らし業界を去って行きます。
アイドルブームの絶頂
ここからは僕が実際に体験している話です笑。
時は流れ、今で言えばAKB48グループのようなアイドルが徐々に台頭してきました。
それまでも僕が生まれる前で言えばおニャン子クラブとかモーニング娘。とかアイドル時代はある訳ですが、オリコンランキングをほぼ1~2組のアーティストが占めるような時代は今が始めてでしょう。
実はこのアイドルブーム、スタジオミュージシャンにとっては美味しい時代でした。
と言うのも、アイドルって皆さんが思っている以上に毎年腐るほどデビューし、もしくはデビューしかけて同じぐらいの数が消えて行ってるんですね。
売る側のレコード会社や音楽事務所も数打ちゃ当たる作戦でどんどんスカウトしどんどんデビューさせて行きました。
そして結局残ったのはAKB48関係とモモクロぐらいでしょうか笑。
そういう風にどんどんグループが出来てどんどん新曲を撮る必要があったので、必然的に僕達スタジオミュージシャンにはばんばん仕事が舞い込んできました。
って言っても1本当たりの単価は凄く低かったんですがね・・・。
当然です、売れるか売れないか分からないアイドルの卵にそんな予算割いてられません。
アイドル側の大人もスタジオミュージシャン側の大人もそれが分かっているから低単価な仕事が量産されました。
それでもシンガーソングライター時代に食えないけれどギリギリ生き残ったスタジオミュージシャンは飛びつきます。
だって仕事があるしギャラが貰えるんですから。
結局お互いにWin-Winの関係がスタジオミュージシャン自体は望んでいないのに出来上がってしまった感じですね。
初音ミクの登場
そしてここで多くのスタジオミュージシャンが死ぬ訳です。
ニコニコ動画やYoutubeと言ったインターネットメディアの台頭で、それまで音楽業界に居なかった逸材がどんどん発掘されていきました。
加えてボーカロイドソフト、初音ミクの登場で更なる日の目を浴びた人達がいます。いわゆるボカロPと言われる人達がそれですね。
言うまでもないでしょう、全て打ち込みで人件費は自分だけ、望んだように音符を並べていけば楽曲が出来るんですから制作費はソフト代程度。
更にプロモーション費用は掛かりません。
ニコニコ動画にアップロードすれば後は良いと思った人達が勝手に拡散してくれます。
特に彼らにとってニコニコ動画のメイン層である若年層を一気に取り込めたのは非常に大きな事だったと思います。
つまり音楽関係の会社が行っている製作からプロモーションを全て1人の人間が行ってしまったと言う例が後を絶たなくなってきた訳です。
更に今の時代、CDなんて個人でも10万もあれば100枚程度作るのはザラに出来ます。
もっと言えば、製作者にジャケットを撮影なり書くなりする技術があれば自宅で全部やる事だって可能です(それなりの印刷環境さえあれば)。
となると製作からプロモーション、販売までを自分で出来ちゃうんですね。
これにはスタジオミュージシャンもお手上げです。
だって入り込む余地が1mmも無いですもん笑。
当然若者に絶対的な支持を得たボカロというジャンルを大人が見過ごすはずはありません。
その形態のままメジャーレーベルからデビューしたりした方も多く居ます。
更に全編打ち込みの楽曲を多用するアーティストも増えてきましたし、DTMの発展と簡易化で素人でも簡単に楽曲製作が出来るようになりました。
とある先輩ミュージシャンが飲み会の席でポロっと言った言葉を今も忘れられません。
俺達みたいな箱に引きこもった音屋の時代はもう終わるのかも知れねーなあ。
高価な楽器に高価なエフェクターを通して何時間も音を作って、それをこれまた高価なアンプを通し高価なキャビネットから音を出す。
片や数千~数万で揃うソフトと下手したら何百万と掛かる機材のコストパフォーマンスは言うまでもありませんよね。
別の側面から見るミュージシャン
更に別の側面からミュージシャンと言う職業を見て見ましょう。
ミュージシャンって、なんとなーく健康に悪そうなイメージありません?早くして亡くなってしまう方も多いですしね。
ここで僕の3日間のスケジュールを見て頂ければと思います。
1日目 12時起床 15時入りで打ち合わせ 17時入りでレコーディング 28時完パケ
2日目 8時起床 10時入りでリハーサル 18時半ライブ 25時完パケ
3日目 前日から寝ずにそのまま4時入りでスタジオリハーサル 9時~10時仮眠 12時入りで打ち合わせ 13時入りでリハーサル 18時ライブ 24時完パケ
はい、こんな感じだったんですが見て分かる通り生活が一切安定していないですよね。
こんなのまだ良い方で、アーティストさんが納得しなければレコーディングが3~4日続くなんて事もあったりします。
必然的に体内時計なんて狂いまくりです笑。
更に書いてませんがライブ後の打ち上げやら何やらで食生活も不規則。
睡眠時間もろくに取れないんで1回の睡眠が2~3時間しか取れず、仮にそれ以上時間があってももう勝手に起きちゃう体になっちゃいました。
これがミュージシャンが長生き出来ない最大の理由だと個人的には思っています。
結局のところ、朝時間通りに出社して多少の残業で変動はあれど同じ時刻に帰宅して規則正しいサイクルを送るサラリーマンやOLと比較すると健康に良い訳が無いのは言うまでも無いです。
長く健康に生きたいならミュージシャンはやめとけ!
これが僕が実際にスタジオミュージシャンになって思った結論です笑。
元気に過ごしたい、健康に過ごしたい、長生きしたいなら音楽業界なんてもっての他です。
ここで誤解の無いように書いておきますが、全員が全員こんな生活じゃないですよ。
ミュージシャンにも規則正しい生活を送ってる方は大勢いらっしゃしますし健康な方もいるでしょう。
でも、スタジオミュージシャンにそれはちょっと無理です。
その日その日によってクライアントが変わるんですから、結局スケジュールはそのクライアントに合わせる事になります。
夜型のアーティストさんもいれば昼型のアーティストさんもいる。
1人のアーティストさんについて食っていける程割の良い仕事が頂けたらそれで良いかも知れませんが、そんな人極々僅かです。大半は無理です。
結局使う側のアーティストさんと使われる側のスタジオミュージシャンにはそこに大きな隔たりがある訳ですね。
もちろんアーティストさんはそんな事思ってない人が大半です。
でも実際に複数のアーティストを兼任していると、結果としてそういう風になってしまうのも必然です。
それでも音楽は面白い
それでも、僕は今少なくともミュージシャンをやめようとは思っていません。
幸いにして食っていけてますし何より音楽がとても楽しいですからね。
色々辛い部分があるのはきっとどんな仕事でも同じであって、殊更ミュージシャンだけが辛いなんつー事は絶対に無いはずです。
ただし時間が不規則なのはある意味特殊かも知れませんね。
夜勤がある警察官や消防士の皆さんにも同じ事が言えるかも知れませんが、勤務時間がスケジューリングされている彼らともちょっと違う部分があります。
最終的にそういうデメリットを受け入れてもやりたいと思えるから良いのですが、今からミュージシャンを目指そうかな?と言う方達には少なくともこの職業はオススメしません笑。
今の時代、腕さえ磨けば無料でプロモーション出来る動画サイトをはじめとする舞台が整っています。
本気で売れたかったそういうところで自分達を売り込めば良いし、わざわざ高いお金払って無理に上京したりする必要もありません。
本当に売れてスカウトされればそんなの出してくれますから笑。
ミュージシャンになる為に上京するとか、ミュージシャンになりたいからオーディションを受けるとかって言う時代はもう古いと思ってます。
本当に売れる=商品になる!って思われた人達は向こうから声を掛けてくれます。
ただ、音楽は商売にする事が全てじゃないと思っています。
趣味の世界でやっていればもっとしがらみ無く色んな事が出来るなーと思った事も無い訳じゃありません。
自分の人生を賭けてまで本当に音楽をやりたいのか、しっかり考えてから目指して欲しいなーと思っています。
コメント
初めまして
自分は音楽で食べていくことを目指して活動しているものです
この記事はこれからの活動を考える上でとてもためになりました!
スタジオミュージシャンの活動はすごく興味があるので、これからの記事もチェックしていこうと思ってます
自分もブログ書いています
よかったら僕の活動も知っていただいて、アドバイスなどいただけたら嬉しいです
ありがとうございました!
>>せいやさん
始めまして、コメントありがとうございます!
ブログ拝見致しました、ドラマーさんという事で畑は違えど同じミュージシャン。
特にリズム隊なんで色々と考えが通ずる部分もあったかと思います笑。
今の時代少しでもバンド活動なんかを齧った方だと世知辛い世界なのは言うまでもなくだと思います。
だからこそ、こんな世知辛い世界だからこそ頑張ってやってみたいっていうロック的な反骨精神もありかなーなんて思ってたりします笑。
いずれどこかでお会いする機会があるかも知れないですね、お互い頑張りましょー!
面白い記事でした!
僕もつくづく思っていることですがやはり最近は趣味でやってるような素人の方たちがすごいですよね。
音楽が誰でも低コストで作れて楽しめる時代です。
もう音楽に商業的な価値は薄いのでしょうが、それでも好きなものは好きなので僕も頑張ります。
>>なかむらさん
初めまして、コメントありがとうございます!
面白いと言って頂けて何よりです笑。
元々音楽ってコツコツとした努力ももちろん必要ですが一瞬のひらめきが輝く事が多いジャンルですし、素人素人ってバカに出来ない世界になっていますからね・・・
もちろん本当に音楽を愛しているならそういう方々がもっともっと出てくれば良いんでしょうけれど、悲しい事にそういう方もまた大人達の犠牲になる可能性を秘めているのでいつか業界自体のあり方が変わってもっと自由にしがらみ無く輝ける世界になれば素敵だなーと思っています!